山本牧場 (愛媛県宇和島市津島町)


こちらはインターネットで見つけた牧場です。愛媛に移住してから、「愛媛、山地酪農」などのキーワードで検索していたところヒット
したのです。春の季節の芝桜が有名だと説明にはあります。うちからは少し距離があるので、なかなか行けませんでしたが、2016 年 7 月に
ようやく行くことができました。

行ってみて驚きました。正直に言うと、インターネットから受ける印象から、山地酪農とは名ばかりの牧場ではないかと疑っていました。
ところが、完全な山地酪農牧場だったからです。

この景色をご覧ください。



ご主人 (2 代目) から伺った話と、宇和島の情報誌「きずな」(2011 年夏号) から得た情報を総合すると、以下のようになります。

この牧場は、先代の山本孝一さんが 1969 年に開牧しました。その後、高知の斎藤牧場に感化され、1971 年から現在の地で山地酪農
として開墾したそうです。今でも放牧地を歩くと、その名残である木を切り倒した後が残っています。その後、15 年間乳牛を育てたものの、
副業で行っていた堆肥製造が忙しくなってきたのに加えて、乳価の基準改定があったため、酪農を諦め、堆肥製造に移行したとのこと。

少し話はそれますが、乳価が安いというのは山地酪農に避けてとおれない課題です。どういうことかというと、乳価の決まる基準の 1 つに
乳脂肪分があり、山地酪農を厳密に行おうとすればするほど、基準をクリアできないためです。

牛乳は、国の省令によると乳脂肪分が 3.0% 以上あればよいことになっています。しかし、業界団体が 1987 年に 3.2% から 3.5% に改定
しました。乳脂肪分が 3.5% 以上ないと引き取ってもらえないとか、買いたたかれてしまうわけです。山地酪農の場合、えさは放牧地に
はえているシバであることから、配合飼料などに比べると乳脂肪分は下がりがちです。また、夏場はどうしても牛が気温の影響を受ける
ことから、乳脂肪分が年間を通じて変動します。したがって、3.5% を安定してクリアすることが難しいのです。

このタイミングで酪農家の廃業、もしくは山地酪農から畜舎飼いへの移転が進んだと本で読んだことがあります。こちらの牧場でも
同時期に酪農をやめています。

このように乳脂肪分が決められているため、一般の酪農家は乳脂肪分が高くなるように配合飼料を与えます。これに対し山地酪農は、
放牧地にはえているシバを牛が食べるのが基本であるため、どうしても乳脂肪分が高くなりません。じゃあ、配合飼料を与えればいいじゃないの!
と思うかもしれません。でもね、配合飼料を与えるような飼い方に対するアンチテーゼとして山地酪農があるわけですから、配合飼料を与えて
しまっては本末転倒です。

それに乳脂肪分が高ければ高いほどおいしいのかというと、そうでもありません。スーパーで普通に買える牛乳には乳脂肪分 3.6% の
製品がざらにあります。でも、おいしさでは脂肪分 3.0% の田野畑山地酪農牛乳にかないません。まあ、味覚は曖昧なのでどうしても数値を
もとにしなければならないというのは理解できるにせよ、それが理由で山地酪農が経済的に不利になってしまうのはやりきれません。



話がそれたので戻します。

それ以降も、牧場のシバを維持するために、肉牛を放牧しており、今では 10 ヘクタールの放牧地で8 頭の肉牛を飼育しています。
田野畑山地酪農のルールでは 1 ヘクタールに 2 頭までとなっているので、それからすると、この広さに 8 頭は余裕です。
実際、歩いてみると、どこもきれいに牛が食べているので驚きました。牛が多すぎると土が露出してしまうことがありますけど、
そんな箇所もなく、かといって食べ残して草が伸び放題ということもないのです。掃除刈りもしていないというので、さらにビックリです。

肉牛の場合、搾乳が不要なので、夕方に一度、牛舎に戻ってこさせて、頭数管理を行い、後は 24 時間 365 日完全放牧だそうです。



こちらの牧場で珍しいのは、放牧地でハンモックを楽しめるサービスがあることです。この見晴らしのよい放牧地でハンモックをつるして
休むのは、はたから見ても気持ちがよさそうでした。



行ったのは 7 月末の 30 度を超える日でしたけど、ハンモックで休んでいる方がいましたよ。標高が高いこともあり、木陰にはいれば
暑くてしょうがないということはありませんでした。

牛は暑さを避けて、さらに高いところに上がってしまっているので、視界に牛がいないのは残念です。






こちらの牧場は観光牧場として土日しか営業していません。また、本業の繁忙期である 8、9 月には営業していないので、いつ行っても
楽しめるというわけではありません。それでも、この牧場は訪れるだけの価値があります。

こんな素晴らしい牧場が近くにあることを、宇和島の方は自慢してもよいと思います。

(2017 年 3 月 21 日)

2020 年 3 月末に訪問した際、この牧場を開いた山本孝一さんから、猶原恭爾博士が高知県で行っていた山地酪農の勉強会を契機に
山地酪農を始められたことや、高知の斎藤牧場とつながりがあったことなどを伺いました。牧場を始めた後も猶原博士には手紙で
相談していたそうで、今でも「猶原先生が」と語る姿が印象的でした。

岩手県田野畑村の吉塚さんといい、宇和島の山本さんといい、猶原博士から直接指導を受けた方々は、40 年以上たった今でも猶原博士の
教えを口にします。猶原博士の熱量がどれほど大きかったのかと思わずにいられません。
(2020 年 4 月 12 日追記)


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